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米で1万2000店舗が閉店の可能性も? 米政府による対中関税への懸念が広がる

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米中の貿易摩擦は、米政府が中国からのほぼ全ての輸入品に25%の関税をかける手続きに入ったことでいっそう激しさを増している。これは米中が合意に至らない限り今夏の終わり頃に発動される予定だが、今回はアパレルやフットウエアも対象となるため、米国内の小売りや消費者への影響を懸念する声が専門家らの間で高まっている。

 米投資銀行UBSのジェイ・ソール(Jay Sole)小売りアナリストは、「実店舗がどれほど苦戦しているかを市場は認識していないのではないか。対中関税が25%に引き上げられると、多数の店舗が閉店に追い込まれる可能性がある」とのレポートを発表した。同行では、関税の引き上げによって73の上場企業が持つ店舗のうちおよそ1万2000店が閉店し、それに伴って400億ドル(約4兆3600億円)の売上損失が出る可能性があると試算しているが、非上場企業まで含めるとさらに影響が拡大することが予想されるという。

 小売り業界では、ホリデー商戦が期待外れだったことやECへの移行が加速していることを背景に、2019年は5月時点ですでに18年全体よりも多くの店舗が閉店している。ソール=アナリストによれば、閉店は必ずしも悪いことではないが、現在の環境下では「在庫調整に大幅な変調をきたし、値引きするしかなくなる」ためマイナスの影響が大きいという。また小規模なショッピングモールの場合は、数店でも閉店するとモール全体が活気を失い、健全な店舗まで影響を受ける懸念がある。

 では、実際にどのような企業が影響を受けるのだろうか。米証券会社コーウェン(COWEN)は、対中関税の引き上げで最も影響を受けるアパレル企業として、スケッチャーズUSA(SKECHERS USA)や、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のライセンス生産を行っているG-IIIアパレルグループ(G-III APPAREL GROUP以下、G-III)、「カルバン・クライン」や「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」を擁するPVHコープ(PVH CORP以下、PVH)、そしてラルフ ローレン(RALPH LAUREN)の名前を挙げた。スケッチャーズUSAとG-IIIは調達を主に中国で行っていること、PVHは4億ドル(約436億円)程度の中国製品を輸入していることがその理由だ。

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は5月14日、「米国内で生産すれば関税はかからない。中国ではなく、関税がかからない国から買うこともできる。多くの企業が中国から離脱している」とツイッターに投稿したが、これに異を唱える専門家も多い。ジョン・カーナン(John Kernan)=コーウェン証券アナリストは、「中国から工場を移転するにしても、その他の地域にそれを受け入れる余地はあまりない。サプライチェーンにかかる費用は世界的に上がり続けるだろう」とコメントした。

 実際、G-IIIなど生産工場を中国から移転させようとしている企業も多いが、それには数年単位の時間がかかり、関税引き上げのタイミングに合わせて数週間や数カ月でできるものではない。コーウェン証券のアナリストらは、最終的に小売り企業は10%程度の値上げをせざるを得ないだろうという。

 ジュリア・ヒューズ(Julia Hughes)米国ファッション産業協会(U.S. Fashion Industry Association)プレジデントは、「衣服やフットウエア、カーテンなどのホームテキスタイルに対する関税の引き上げは、中国への制裁としての効果より、米国のファッションブランドや小売り、そして米国の消費者にダメージを与える効果のほうが高い」と警告した。